いよいよ第五ステップに入りました。天駆け、慈雨を降らす「飛龍」(ヒリュウ)の段階へと成長してきました。スタートの「潜龍」時代から抱いてきた志を達成し、これまで身につけてきた能力を発揮して社会に貢献していく時代になります。
「飛龍天にあり。大人を見るに利ヨろし」と書いてあります。龍の傍らには必ず雲があると先述いたしましたが、「飛龍」になれば雲だけではなく、いいことも悪いこともどんどん集まって、それがすべていい方向に転じる勢いがあります。
陰陽でみますと、第一ステップの「潜龍」から段階を経るごとに陽は強まり、第五ステップの「飛龍」(ヒリュウ)になると陽はさらに強まります。物事は極まり過ぎると質的転換が起こるとは先に述べました。従って「飛龍」の時期は、陽が極まっていく時期なので、あえて自ら陰を生み出すように努めなければなりません。
そこで「大人を見るに利ヨろし」が必要になるのです。ここでいう大人(タイジン)とは、「見龍」の時の大人とは異なり、自分以外の人、物、事、すべてということになります。つまり「自分以外のすべての人の言動や、あり様から学び、じっくりと意見に耳を傾けなさい」といっているのです。私がよく口にしますが、「人みな我が師である」ということです。
「教える・話す」行為は陽であり、「学ぶ・聞く」行為は陰になります。その人は「飛龍」になれるほど抜きんでた実力の持ち主でありますから、それだからこそ、あえて他者に学び、人の話をよく聞いて絶えず自ら陰を生み出すことが求められるのです。
同時に第一ステップの「潜龍」時代に打ち立てた志を決して忘れないことが大切になります。志を忘れた時、人は欲望へ身を任せるようになります。また、「飛龍」のステップにいても新しいことに挑戦すると、その場では「潜龍」になります。例えば会社の社長であっても、新規事業を始めればその業界では「潜龍」、何かお稽古事を習い始めれば、その道では「潜龍」なのです。
私のことで恐縮ですが、私は自己を戒めるために、「今はまだまだ潜龍だ」「今年も潜龍元年だぞ」と常に意識するように心がけております。人間という生き物は、一人前と思ったら、その瞬間に成長は止まってしまうからです。
しかし、努力を怠って自ら陰を生み出せずに、陽を極めた「飛龍」は一転して「亢龍」(コウリュウ)となって行きます。いよいよ最後の第六ステップまて進んできました。第六ステップは「亢龍」(コウリュウ)の時代であり「亢龍悔いあり」と書いてあります。亢とは驕り高ぶるとの意味になります。
志ではなく欲望に身を任せ、人の意見も聞かずにひとり天高く昇っていった「飛龍」には、もはやいつも付き添っていた雲もついてはいきません。雲を呼び、雨を降らせる能力があるからこそ「飛龍」なのです。雲を呼べなくなったら、「亢龍」(コウリュウ)となって凋落していくしかありません。降(クダ)り龍と呼ばれます。
しかし例えてみれば、青信号が突然赤信号に変わることはありません。必ず点滅したり黄色信号になったりして危険を知らせているはずです。にもかかわらず、その兆しに気づかなかったふりをして「これくらいなら大丈夫だろう」と改善を惜しんだからこそ「亢龍」(コウリュウ)になってしまったのです。「吉凶悔吝」(キッキョウカイリン)の話を思い出して下さい。「吝」(リン)を続けたからこそ「亢龍」(コウリュウ)に凋落して落ちていくだけの龍になってしまったのです。
では、一度「亢龍」(コウリュウ)になった龍は、もう二度と空へは飛び立てないのでしょうか?「亢龍悔いあり」と言っていますが、「亢龍」(コウリュウ)になって初めて「いままで俺は間違っていたのか・・・」と本当に悔い改めたとしたらどうなのでしょうか。
ここで再び「吉凶悔吝」の話を思い出して下さい。「悔」(カイ)は吉に存します。一度地に落ちた「亢龍」(コウリュウ)も、とことん悔い改めることでもう一度新しい別の吉へ、ゆっくりと転換していくことができるのです。時間はかかりますが可能です。そう聞くとホットいたしますね。
この様に「易」は決して行き詰ることがありません。どんなに追い込まれても必ず道は開けていくと教えています。この「乾為天」(ケンイテン)を読まれて皆さんはどんな感想をお持ちでしょうか?あなたは、今どのステップの段階におられますでしょうか?振り返って見られてはいかがでしょうか。
一般に会社における位は、下からいえば平社員、係長課長、部長、取締役・重役、社長・会長、相談役・顧問になるでしょう。「君子終日乾乾」の段階は会社の中では第三ステップの部長クラスになります。まだ経営陣には入っていません。経営陣と従業員層の中間的な立場であり双方の仲介をする役割を担っています。第四ステップは「躍龍」の時代で、取締役・重役であり経営陣に入るでしょう。社長であれば第五ステップの「飛龍」になります。大いに慈雨を降らせて社員を養っておられることでしょう。地域社会にもきっと貢献なさっておられるはずであります。
「飛龍」の時期は、陽が極まっていく時期でありますから、「あえて自ら陰を生み出すように努めなければなりません」と述べました。またその人は「飛龍」になれるほど抜きんでた実力の持ち主でありますから「あえて他者に学び、人の話をよく聞いて、絶えず自ら陰を生み出すことが求められます」とも述べました。自戒の言葉がちゃんと備えてあるのです。
つまり自分以外のすべての人の言動や、あり様から学び、じっくりと意見に耳を傾けなさい、といっているのです。傾聴・拝聴です。「黄金の耳」をもったリーダーということでしょう。「人みな我が師である」という姿勢が基本であり、実践が大事であるということでしょう。
自分以外の人、物、事、すべてに耳を傾けなさいということになりますでしょう。「亢龍」(コウリュウ)のステップに上り詰めても「亢龍悔いあり」で、降(クダ)り龍が待っております。くれぐれも「亢龍悔いあり」に落ち込まないように、日頃のご注意を心がけて頂きたいと存じます。
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